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9月29日・黄笠・小説でも小話でもない、ただの妄想をつらつらと。
9月24日・黄笠2「つめたいて」
9月24日・黄笠1「あたためて」
9月20日・斎左之9「くちづけの意味」
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特技は何でもBL変換すること。
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黄瀬×笠松
「とびらのむこう」
IH準々決勝後のお話。
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夕陽も夜の闇に飲み込まれようとする頃、笠松は校内に点在する外灯の下、慣れ親しんだ体育館に向かって歩いていた。
先程まで、試合をし、全力で戦って、負けて――痛いほどの悔しさに涙していた熱は、少しずつ、寂しさに変わっていった。
(もう……終わったんだな)
けれど、足は体育館へと進む。
(どんだけ好きなんだよ、おれ……)
やめようと思ってもやめられなかった。自分でも呆れるほどバスケが好きで、好きで堪らない。
「―――――」
目の前に見えてきた体育館から、光がこぼれ、ボールの弾む音が聞こえる。
誰かが、居る。――笠松の頭の中では一瞬後に、一人の男の姿が現れていた。
「ふっ」
そんな自分に嘲笑いをもらしながら扉に手を掛けた笠松は、踏み出す足を止めた。
試合会場を後にしたあの時から、確信してたんだ。
この中で、『黄瀬が待っている』って
****
「あれ? センパイ! どうしたんスか、こんな時間に」
広いコートに黄瀬の声が響く。
「お前こそ、あんなにヘバってたのに、大丈夫なのかよ」
片手をあげてパスを要求した笠松は、受け取るとすぐさま黄瀬に返し、シュートされたボールの軌道を目で追いかけた。
「ほら、もうバッチリっスよ。若いんで、回復力は半端ないっス!」
ゴールを決めて王道のピースサインをした黄瀬は、遠目でも判るほど泣き腫らした笠松の目を見て、やわらかい表情をした。
「なんだよ、俺に構わず練習しやがれ! 若いんだろ?」
近づいてくる黄瀬に、来るなと云わんばかりの追いやる仕草をするが、相手はそれさえも愉しんでいるみたいだ。
「何なんだよ」
「センパイ、告白、していいっスか?」
「……? 何かやらかしたのか?」
「違うっスよ~、そんなんじゃなくて」
真面目な話なのだとわかって欲しくて、黄瀬は崩した顔を引き締めた。
「オレ、センパイと出逢うために、バスケ始めたんだと思うんス」
そりゃ、その当時のオレは、センパイの存在すら知らなかったっすけど――
けど、青峰っちのバスケを見て、負かされて、夢中になって練習して……。
そして、桐皇戦の前にセンパイが話してくれたあの試合――オレ、見てたんスよ。最後の笛が鳴った、あの瞬間まで。
あの時のオレは、勝たなきゃ何の価値もないって思ってて、負けた海常に何の興味も持ってないはずだったんスけど、笠松先輩の背中に釘付けで……。
あの後、気になってリサーチしてたらキャプテンになってるって知って……。単純に、辞めてなかったんだ!って、それだけでも嬉しかったのに、キャプテンになって引っ張ってってる!って、オレっすっげぇ興奮して!!
推薦ってのも運命感じるっしょ?
興奮に瞳を輝かせて一気に捲くし立てた黄瀬に、笠松はただただ微笑んでいた。
「……センパイと一緒に優勝できれば、かっこよかったんスけど。……力不足で……」
少しの間に、黄瀬の笑みは少し淋しげなものに変わっている。
「お前ひとりの所為じゃねぇだろ」
肩を小突いてやると、鬱屈とした空気を吐き出した黄瀬は、笑みを濃くした。
「絶対に優勝してみせるッス! 全国掴んだオレたちの姿、センパイに見せてやるッス!!」
「おぉ。楽しみにしてるぜ」
頼もしい後輩の言葉に、笠松は素直に感動していた。が、次に発せられた黄瀬の一言で吹き飛ばされる。
「でぇ、そのためにはモチベーションをあげとかないとっすから……。センパイ! キスしてください!! お願いしまっす!!!」
「あ?」
黄瀬の声が意味を形成してゆくにつれ、笠松の表情が曇っていく。
「そしたら明日から、いや! 今日からオレ死ぬ気で練習するっス!!」
「なんでお前のモチベーションのためにキスしなきゃなんねぇんだよ!」
「え―――――」
正論を口にしたにもかかわらず、否定してくる黄瀬に、とりあえずの落としどころとして笠松は提案を出す。
「……じゃあ、全国とったら、してやるよ」
「えぇ―――――」
目一杯の譲歩をしてやったにもかかわらず、黄瀬は持っていたボールを取りこぼしショックであることを強調してくる。
「えぇーって、取る気ねぇのかよ!!」
「だって、まだまだ先のことじゃないっすか……。お楽しみが長いッスよ……。キスくらいいいじゃないっすかぁ~減るもんじゃないのにぃ……」
むくれる黄瀬がグチグチ不満を漏らす中、笠松は呆れ半分で受け入れることにした。
「――わかったよ、すればいいんだろ」
「へ?」
「キスくらい減るもんじゃねぇし」
自分が出してきた要求を承諾しただけなのに、当の本人が驚いている。
「センパイ……疲れておかしくなっちゃったんじゃないっスか?」
「んじゃ、いまの却下」
「いやいやいやいやうそうそうそうそ!! したい! させてください!!」
「わかったから……落ち着け」
黄瀬の慌てぶりに動揺した笠松の肩に、つい今しがたまでとは真逆の穏やかな黄瀬の手が乗せられた。
「センパイ、キスって……どうするか知ってます?」
「どんだけ馬鹿にしてくれてんだよ!? あ?」
経験の差をひけらかしてつまらない事を言ってきたのかと、笠松はジタバタと暴れて抗議しようとするが、黄瀬は難無く押さえつけている。
「ちょ、ちゃんと聞いてください、センパイ。――唇と、唇が重なるってことっスよ?」
「知ってる!」
少し上の方にあった黄瀬の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
「センパイの唇と、オレの唇が――重なるんスよ」
「……しってる」
吐息さえも触れる距離で、笠松はどうしていいのかわからず、小声になった。
「ほんとうに?」
黄瀬も小声で返すと、笠松は堪らず目蓋をギュッと閉じた。
唇の感触と軽く吸い付いた音が、笠松のおでこから響いた。
「…………」
何のことか判らず呆けている笠松に、黄瀬は満面の笑みで答えた。
「センパイの唇は、両思いになった時まで、とっておくっス」
自分の唇に人差し指をあてて、笠松に投げキッスを贈った。
=終=
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キスせぇへんのかい!!
なぜか黄瀬くんは最終的に紳士になってしまうんやねぇ……
ガバっと、ブチュっといってしまわんかい!!