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小説の更新記録 |
9月29日・黄笠・小説でも小話でもない、ただの妄想をつらつらと。
9月24日・黄笠2「つめたいて」
9月24日・黄笠1「あたためて」
9月20日・斎左之9「くちづけの意味」
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特技は何でもBL変換すること。
人見知りオッサンであります~
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新選組
沖田総司と斎藤一と原田左之助
「知略の代償」
左之っちを苛めて遊ぶ沖田も好きなんです。
夜、斎藤と二人っきりになりたくないという思いで考えをめぐらした左之は…
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二人分の寝息を感じながら、沖田総司は狸寝入りをやめて身体をそっと起こした。歳三の部屋へと潜り込むのだが、今回は勝手が違った。
真夜中の暗闇は目が慣れてくると、襖から淡く滲む月明かりでも充分に部屋の様子が判るようになる。
沖田を真ん中に、奥側で眠る斎藤一と出入り口側で眠る原田左之助は、本当に対照的な寝相だった。
斎藤は、肩まできちんと掛けられた布団で確認は出来ないが、きっと夜着の乱れ皺一つないだろうと思えるほど姿勢よく眠っている。その一方原田は……、鼾はないもののこちらに身体を横向けに丸まり、大いに着崩れたその姿が見て取れるほど掛け布団を足元に蹴り飛ばしていた。
いつもの光景に、いつもの様に布団を掛け直してやった沖田は、ふと目に入った原田の手首を見て――思わずため息をついてしまった。
『いいか、総司! 今日こそ、絶ッ対出て行かせねぇからな!』
『行かせないって言われても……きっと左之さん熟睡してて、私が出て行っても気付かないですよ?』
至極真面目に言葉を返した沖田に不適な笑みを向けた原田は、練り上げた策を実行に移した。おもむろに沖田の腰に抱きつくと、着付けられた帯紐を解き、そのまま腹前で蝶々の結び目を作り直した。
意味の判らない行動に目を丸めて大人しくしていた沖田に、今度は片方の帯端を差し出して息巻くように命じてきた。
『こいつを俺の手首に、きつぅ~く縛れ!』
鬱血するから止めておいた方がいいと言っても聞くはずもなく、原田は余計に興奮してゆくばかりで、沖田の言葉に怒気を重ねた。
『途中で解けるような縛り方するなよ! 俺が「外せ」って言う前に外しやがったら、絶交だからなッ!!』
就寝時に、ほんの少し部屋から離れた斎藤の不在時に執り行われた出来事を一通り想起して……、沖田はもう一度ため息をこぼした。
折角の非番前夜だというのに、土方との逢瀬を邪魔された――的なものも当然含まれてはいたが大半が、
(左之さんは本当に、これで私を引き留めておけると思っていたのかな? それとも何かの冗談?)
という思い。
「どうしたんですか?」
上半身を起こして沖田に話しかけてきたのは、斎藤だった。沖田はこのときを待っていた。ようやく役者が揃ったとばかりに、練り上げていた構想を完成させるべく動き出す。
「……見ての通り、囚われの身なんです」
帯紐の先の原田を見せ付けてやると、無表情な顔に薄い影がかかるのを沖田は見逃さなかった。
「なんだか、私を部屋から出さない為にっていうことでこんな事されちゃったんですよねぇ」
言葉を受けて斎藤は悩むことなく沖田の帯紐を解き、続けて自分の帯紐も時にかかり、それを手渡した。
「これをどうぞ」
「――ありがとうございますぅ。助かりました」
無理やり貼り付けていた困り顔を剥ぎ取り、喜々とした表情を滲ませた沖田は、受け取った斎藤の帯紐ではだけた夜着を整えた。
「ホントよかったぁ~、斎藤さんが起きてくれて。このままじゃ
わざと張りよい声を出す沖田に心地よい眠りを邪魔された原田は、唸りながら目蓋をこすりはするもののまた一度、寝息をたてた。
(まぁまぁ~、気持ちよさそうに……。別に怒ってるわけじゃないんですけど、左之さんのそういう顔見せ付けられると、苛めたくなっちゃうのはどうしてでしょうね?)
自問の答えに興味はなく、ただただおかしくて――これから原田にふりかかる自業自得とも云うべき災難に、沖田は思いを馳せつつ立ち上がり微笑を斎藤に向ける。
「あ、斎藤さん。一つお願いしてもいいですか?」
人差し指を立てて鼻先に持ってきた沖田を見上げる斎藤は、静かに促す。
「左之さんの手首のそれ、外さないでくださいね。左之さんが私に『外せ』って命令してくれない限り、ダメなんですって。勝手に解けたり外したりしたら……わたし……左之さんと絶交させられちゃうんですッ!!」
雰囲気を出すために目を伏せる沖田だったが、下方から見ている斎藤には終始緩んでいる頬が知れていると気付くと、遠慮なく破顔し悪戯っぽく片目を閉じた。
「と、いう訳ですので、後はお任せしますね。斎藤さん」
最後の言葉で沖田の意図を飲み込んだ斎藤は、目の前に広がる原田が絞り出した知略の結果に――呆れたとばかりにため息のような笑みをこぼした。
「コォラァ! 総司ィィイ――――――!! はーずーせぇ~え!!!」
「おい、総司……。あの騒音、どうにかしてこい……」
「嫌ですよぉ~」
笑みを吐息にのせて、沖田は土方の温かな腕の中で目を閉じた。
「もうじき、静かになりますよ」
沖田の予言は的中し、夜は静寂をとり戻した。
=終=